音楽読みもの Kawasaki Music Magazine Vol.18

|1|2|3|4|5|6|7|

奏者に最高の演奏をさせるミューザ川崎シンフォニーホール

ミューザ川崎シンフォニーホールアドバイザー小川典子さんに聞く

 世界的に最高水準の音響設備を誇るミューザ川崎シンフォニーホールができて3年。川崎市フランチャイズオーケストラの東京交響楽団の演奏会をはじめ、充実したコンサートが音楽ファンを楽しませている。ホール誕生以来、アドバイザーとして企画・運営に携わり、自身の演奏会も積極的に展開しているのが多摩区在住のピアニスト小川典子さん。これまでの活動を振り返りながら「音楽のまち・かわさき」を語ってもらった。

---- ピアノはいつごろから始められたのですか。
 母(道子さん)が家でピアノの教師をしていたので、本当に小さいときからピアノに触っていました。ご飯を食べていても、ピアノが弾きたい、と駄々をこねていたそうです。
 東京の先生から本格的に手ほどきを受けたのは4歳半からです。その後は1日の大半をピアノの練習にあてていました。でも、中・高校生ごろになると、「これだけでいいのか」と迷い始め、精神科の医師になりたい、と思ったこともあります。でも、勉強する間もなくピアノを弾いていたわけですから、あらためてピアノに専念しつづけました。

---- 東京とともにロンドンにも活動の拠点を置いています。
 1987年にイギリスの「リーズ国際コンクール」で3位に入賞したことがきっかけとなりました。日本とイギリスのほか、北欧をはじめとするヨーロッパ各地での活動、アメリカ、オーストラリア、ケニア、アジア諸国など海外公演の範囲も徐々に広がっています。今年11月にはフランスで、初めての公演が予定されています。

福祉と音楽が結びついた「ジェイミーのコンサート」


(上)ボランティアの協力を得て開かれる「ジェイミーのコンサート」
(下)自宅近くの小田急読売ランド前駅周辺の商店街。ケーキ屋さんなどお好みの店も
---- ミューザ川崎シンフォニーホールには準備段階からかかわってきましたが…。
 音響の素晴らしさはもちろん、広くて客席に囲まれているけれど圧迫感がなく、舞台裏にいたっても、演奏者の気持ちをくんだつくりになっています。奏者に最高の演奏をさせる水準のホールだと思います。こうしたホールが、極端に言えば自転車で行ける場所にあり、世界の一流音楽家の演奏を聴けるのは、川崎市民にとって「お得」なことではないでしょうか。
 ミューザ川崎シンフォニーホールにおける私の企画の基本は「イギリスの音楽をリアルタイムで聴いてもらいたい」ということです。ビートルズやミニスカートを生んだイギリスは、クラシック界でも常に新しいアイデアを追求しています。こうした姿勢を大切に、最高のものを届けたい。
 一方で、先ほどの精神科医になりたかった話にもつながるのですが、ミューザ内の市民交流室で自閉症や障がいのある子どもたちの家族を対象に、ボランティアの協力を得て「ジェイミーのコンサート」をこれまでに5回、開催しています。私がロンドンで下宿していた家に自閉症の子がいて、日ごろ演奏会などに行けない家族が、貴重な機会を得ることにより、演奏会に出掛けてリフレッシュすることをヒントにしたものです。
 川崎は福祉に力を入れている町としても全国的に知られています。福祉と音楽が結びついた、こうした企画は、川崎のまちとしての厚み、クオリティーの高さを増すことになるのではないでしょうか。

---- 「音楽のまち・かわさき」がスタートして3年になりますが、川崎のまちと音楽とのかかわりについてどう思われますか。
 川崎で生まれ育ち、現在も川崎に住んでいる私にとっても、川崎が「音楽のまち」を目指す、と聞いたときはびっくりしました。でも、川崎はかつて、「公害のまち」として悪いイメージが先行していました。でも、短い期間で空気や多摩川の水がきれいになり、超一流のコンサートホールが誕生しました。南部の人々の心は温かく、北部にはまだまだ多くの自然がある、こんな川崎を誇りに思います。
 ミューザ川崎シンフォニーホールの舞台に立ったミュージシャンの口コミでさらに多くの一流演奏家が川崎を訪れ、ミューザで演奏する、といったサイクルができるといいですね。クラシックには、確かにとっつきにくい面があるのは事実です。でも、どんな音楽にもそれを楽しむことのできる「カギ」が必ずあります。みなさん、ぜひコンサート会場に足を運び、ナマの音楽に触れて、そのカギを探す楽しみを経験してください。

「9月にミューザで東響とCD録音、世界同時発売へ」
小川典子(おがわ・のりこ)さん
 川崎市幸区出身、中学1年時に多摩区に移り住む。東京音楽大学を経てジュリアード音楽院に学ぶ。1983年日本国際音楽コンクール2位入賞。87年リーズ国際コンクール3位入賞。NHK交響楽団、東京交響楽団など国内の多くのオーケストラと演奏する一方、世界の主要オーケストラ、指揮者と共演、年間公演数は70回前後を数える。イギリスの実力派ピアニスト、キャサリン・ストットとピアノデュオを結成、2人のために作曲されたG・フィトキンの2台ピアノ協奏曲「サーキット」を9月、ミューザ川崎シンフォニーホールで東京交響楽団とともにCD録音し、世界同時発売する。
 1999年文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞、2006年川崎市文化賞受賞。
 海外コンサートに出掛ける時は大きな荷物を抱えて一人でいく。体力が勝負だけに健康管理には気を使う。胃腸が強く、食べ物に好き嫌いがないため、外国へ行っても元気だ。最近は豆を主体とした中東料理にはまっている。デビュー20周年を迎える2008年には各地でのリサイタルを予定している。